コロナの感染を調べる検査について説明します。
コロナを検出する抗原検査やPCR検査は、あくまで医師による診断に役立つ「補助検査」であって、「検査が陽性」=「コロナ感染者」というわけではありません。検査結果には 偽陽性 や 偽陰性 もあり、医師による診断は、検査結果も踏まえて総合的に行われます。
(2023.05.08~検査価格 についてはこちら: ▶ ▶ ▶)
現在の日常語で単に「コロナ」という時は、ウイルス(SARS-CoV-2)もしくはこのウイルスによって引き起こされた症状(新型コロナウイルス感染症 COVID-19)のどちらかを意味しています。
コロナウイルス(SARS-CoV-2)の構造は次図のようになっています。ウイルスは主にSタンパク(スパイク)を使って細胞内に入り込みます。いろいろなタンパクに対する抗体は免疫系が作ります。
主な検査として次表のようなものがあります。
検査の種類 | 検出物質 | 意義 |
抗原検査 | 主にSタンパク* | スパイクの存在を示す |
核酸検出検査 (PCR等) |
RNAにあるSARS-CoV-2に特異的な配列 | ウイルスRNAの存在を示す |
抗N抗体 | Nタンパクに対する抗体 | 近年の感染歴を示す |
抗S抗体 | Sタンパクに対する抗体 | 近年の感染歴またはワクチン接種歴を示す |
*:キットによってはNタンパクも検出している
調剤薬局等で「医療用の抗原検査キット」を購入し、自分で鼻腔検査を行って確かめることもできます(鼻先から2cmほど差し込む)。「唾液を採取する検査キット」や「研究用の検査キット」は検出率が低かったり、結果の信頼性に問題があったりするので避けたほうが良いでしょう(参考にはなります)。
コロナ陽性でした。
— 渡瀬ゆず💉 (@kamo_kamos) February 19, 2024
コロナになって感動したのは「陽性でも陰性になる」と話題の東亜産業のキットだけが見事に陰性を叩き出したことです。
医療用鼻腔式はどれもバッチリ陽性。こんなもん売るなよ💢 pic.twitter.com/3F7ijZuUZh
鼻腔ぬぐい液を医療用の抽出液で処理して東亜産業のキットで試してみました。(左図)
— 渡瀬ゆず💉 (@kamo_kamos) February 20, 2024
結果、陽性!やればできるじゃん!
東亜のキット、唾液吸わせるだけでで抽出も中和も何もしてないもんね。
「唾液で簡単」で売るために性能台無しにしてる感じ。買うなら医療用の鼻腔式一択だと思います。 pic.twitter.com/9u5dDfwir0
受診直前に「鼻腔抗原検査で陰性」を自宅で確認後、病院を受診し「鼻咽頭抗原検査で陽性」となることは、よくあることです。採取できるウイルス量が違います。
コロナに感染して発症する時、上気道(鼻腔、咽頭、喉頭、気管など)で増えて鼻や口から排泄されるウイルスの数量は次(下図↓)のように変化します(注:単なるイメージ図です)。
簡便でよく用いられる抗原検査(定性)ではたくさんのウイルス量が必要です(下図↓)。
(注:抗原検査(定量)は、少ないウイルス量でも検出できるようですが、コストパフォーマンスがよくありません)
また、2021年末(令和3年末)まで流行していたデルタ株では、発症前からたくさんのウイルスが排泄されており、発症後に病院を受診する患者の検査は抗原検査(定性)で十分でした。
しかし、2022年(令和4年)に「日本で流行の始まったオミクロン株」では、発症に遅れてウイルス量の急増することも少なくなく、発症直後(おおよそ12時間以内)の受診では「抗原検査:陰性」となる例が増えています。(下図↓)
図をまとめると:↓
発熱外来受診後の「検査の流れ」を説明します。
実際の検査方法の選択や検査の流れは、初受診か再診か、過去に実施したコロナ検査(PCR検査や鼻腔採取による抗原検査)の日時や結果によって異なります。最初からPCR検査をすることもあります。
ここでは発症後初めての受診であり、過去に検査を受けたことがないことを想定します。
発熱外来を受診すると簡単な問診の後、コストパフォーマンスの高い抗原検査(定性)が最初に行われます。
そこで、診察の結果、コロナの可能性が小さくないと考えられる場合は、次のいずれかを選ぶことになります。(下図↓)
図では発症直後の検査で半分くらいの人が「抗原検査:陰性」になると仮定しています。
上図(↑)を2つに分割表示(下図2枚↓)
選択肢1 は、「抗原検査:陰性」確認後にすぐ PCR検査 を受けることです。
病院内の機器で検査できる場合は、30分から1時間程度で結果を得ることができます。外部の検査機関に外注するときは1日~(混雑時は)数日間を要します。受診時にどちらを選択できるかは、その日によって異なります。
検査には「偽陰性」があります。本当はコロナ感染者なのに、「抗原検査:陰性」、「PCR検査:陰性」となることもありえます。
発症状況等からコロナが疑わしい時、繰り返し検査を受ける価値があるかどうかは医師に相談しましょう。
選択肢2 は、診察を受けた医師から「みなし陽性」の判定をもらう方法です。(注:2023年令和5年5月8日からコロナが感染症法の2類相当から5類になり、発生届が不要になったので、この「みなし陽性」は無意味になりました)
「抗原検査:陰性」でも同居家族等でのコロナ発症状況(検査で陽性を確認済み)より、コロナの可能性がとても大きいと医師が臨床診断を下した場合、神奈川県では「みなし陽性(事実上の検査陽性とみなすこと)」と判定できます。
(特に子供など)鼻腔咽頭検査が痛くて辛い時に選択する余地があります。
しかし実際には、大家族で次々と全員が発症するなかで、ひとりだけコロナではなく、急性細菌性扁桃腺炎の発症であった例などもあります。「みなし陽性」を使うのは、診察を受けた医師からコロナ以外の可能性が小さいことをしっかりと確認してもらってからにしましょう。
図の再掲↓
選択肢3 は、受診翌日以降に 抗原検査 を繰り返すことです。1~2日後に再受診して抗原検査、あるいは自宅で抗原キット(鼻腔用)を用いて検査するかを選べます。
新型コロナの検査キットは研究用ではなく国が承認した「体外診断用医薬品」又は「第1類医薬品」と表示されたものを選びましょう。研究用は国が承認したものではありません。参考となる厚生労働省ホームページ →→→ 新型コロナウイルス感染症の一般用抗原検査キット(OTC)の承認情報
自分で抗原検査キットを用いる場合、唾液用ではなく、鼻腔用の検査キットを使いましょう。
自分で手軽にできる鼻腔検査でコロナを検出できるのは、発症後1~2週間以内です。その時期を過ぎると、ウイルス量が少なくなり、抗原検査では検出できなくなります。
自分で検査後は、検査データを保管しておきましょう(現物を保管、また日付や氏名と一緒に写真を撮って保管)。もし受診するときはデータを持参しましょう。
本人の症状や炎症所見、また周囲の感染状況等から明らかなコロナ感染者なのに、抗原検査で陰性の続くこともあります。医師は「臨床診断:コロナ」と判断しますが、どうしても検査で確認したい場合は、PCR等の核酸検出検査が必要になります。
選択肢4 は、あまりお奨めではありませんが、症状がどんどん軽くなっていく場合、自分がコロナであったとしても周りに迷惑をかける心配がない場合、そのまま検査をしないで放置するのもひとつの方法です。
受診時の「抗原検査:陰性」でも、症状等からコロナの可能性が大きいと医師の診断を得ている場合は、他者に感染させないように必要な気配りをしながら療養しましょう。
ただし、コロナはまだ「ただの風邪扱い」をしてよいウイルスではありません。感染症状の原因を特定しておくことは、今後の健康管理や職場及び家庭等での隔離を計画する上で重要です。
長期的な損得勘定(メリット・デメリット)を考えて、発熱等の原因がコロナだったのか、インフルエンザだったのか、それとも他のウイルスや細菌だったのかを特定するかどうかを決めるのが良いでしょう。
コロナ感染後の数カ月間は無理をしないことが重要です。「最初の1か月間運動をしない、次の1か月間運動をしても良いが激しい運動をしない」というのは目安のひとつです。
最初の療養をしっかりやらないと、いわゆるコロナ後遺症(コロナ罹患後症状)になりやすいようです。
今の風邪のような症状がコロナなのかどうかを検査で確認することは、健康管理上かなり重要なことなので、検査しないで放置するのはあまりお奨めではありません(ただし、自分はコロナだと思ってしっかり療養するのであれば未検査放置でも大丈夫でしょう)。
【新型コロナウイルス感染症の罹患後症状でお困りの方へ】#罹患後症状 について、生活で心がけていただくことや、職場の方にお願いしたいことなどをまとめたリーフレットを作成しました。
— 厚生労働省 (@MHLWitter) June 6, 2024
自分の状態を確認したいとき、周囲の方と相談するときなどにご活用ください。https://t.co/qJcci3fUEo pic.twitter.com/5ABuxmEjVi
選択肢5 医師からコロナの可能性が大きいと診断されているのに「抗原検査:陰性」が続くとき、PCR検査を受けるべきかどうかについて説明します。
コロナに感染したのに 「抗原検査:陰性」が続くということは、上気道からのウイルス排泄量の少ない状態が続いているということ です。
詳しいことは「2.療養期間について」のところで説明しますが、上気道からのウイルス排泄は発症の2週間後~4週間後(あるいはそれ以降)でも続いています。
療養期間(今は1週間)を終えた直後の感染者では、まだ「抗原検査:陽性」となる人も少なくありません。(注:5類になって療養推奨5日間に短縮されたので、陽性の人は多いでしょう)
そういう人でも行動制約のない社会活動を再開しているわけですから、「抗原検査:陰性」が続く場合は、あえてPCR検査を受けてコロナ感染者であることを証明して療養生活(社会からの隔離生活)に入る必要はありません。
「PCR検査:陽性」となれば、コロナという診断がほぼ確定的になります。
「PCR検査:陰性」となれば、コロナの可能性は小さいということになり、症状が重いときは原因を調べる必要が生じます。(症状が軽い時は様子を見てよいでしょう)
「抗原検査:陰性」が続くとき、PCR検査を受けるべきかどうかは、そのメリット・デメリットをよく考えて決めることになります。
医師から、コロナの可能性は小さいと診断されていて、「抗原検査:陰性」が続く場合は、コロナの可能性がとても小さいと考えられ、PCR検査の有用性について医師に相談しましょう。
発熱があっても咽痛などの上気道症状が無いときは、(発熱外来での体感的な話になりますが)20名に19名くらい「PCR検査:陰性」、1名くらいが「PCR検査:陽性」となっています。
以上は、筆者が勤務している病院での流れです。
病院ごとにやり方は異なっています。「収益目的なのか、データ収集目的なのか」は知りませんが、最初から複数種の検査法を一気にしている病院もあるようです。
筆者が勤務している病院は、かなり良心的、合理的な方法で検査方法の選択をしていると思われます。
困ったことに、世の中には「PCR教」信者のような会社があります。
「抗原検査:陽性」の結果を踏まえて、症状等からコロナの可能性が大きいと診断された場合、追加でPCR検査をする意味はまったくありません。
逆に、患者の生活環境や症状等からコロナの可能性がとても小さいと医師が判断しているのに、「抗原検査:陽性」の結果となった場合、追加でPCR検査をすることがあります。「PCR検査:陰性」となった場合、「抗原検査:陽性」は 偽陽性 だったと判断します。
抗原検査もPCR検査も、診断時に用いる「補助検査」という位置づけになります。
他の原因を探ることになります。
日常臨床でわりと多いのがmRNAワクチンの副作用(のひとつ:免疫抑制)による感染症です。
新型コロナのウイルス排出量のピークは発症後2日程度、九大などが確認(2021.03.23)
論文はこちら →→→ PLOS Biology
注意1:論文中の図(↓)では対数グラフが用いられており、ウイルスの数量の指数的変化(曲線)は直線的変化として描かれています。今流行中のコロナは SARS-CoV-2 です。
注意2:論文の中でも触れられていますが、コロナ(武漢株系)では「発症前」にウイルス排泄のピークがあるという研究報告もあります。臨床的には「発症日」というのを決めるのが難しい場合が少なくなく、どのような症状の出現を発症日とするのか定義付けが必要でしょう。
オミクロンのウイルス排出量のピークは発症後3~6日後(国立感染症研究所等、2022.01.05)
上は21例(無症状4例、軽症17例)での調査結果です。武漢株、アルファ株、デルタ株と比べるとオミクロン株では1日~3日ほど後ろにピークが遅くなっています。
無症状者20例での調査結果(国立感染症研究所等、2022.01.27)
オミクロン流行期に新型コロナに罹患した医療従事者を対象に発症日とウイルス培養陽性期間を検討したところ
— 新米ID (@black_kghp) September 13, 2023
・発症後5日では約72%で感染性のあるウイルスが検出
・発症後10日でも約18%で感染性のあるウイルスが検出された
復職後もマスク着用や手指消毒の遵守といった感染対策遵守が望まれます pic.twitter.com/DmyvbgovzN
参考:新型コロナウイルスの感染力はいつまで続くのか (新米ID、2023.09.09)
血清中の中和抗体がどの程度ウイルス感染を阻止できるのかを調べる検査です。