3-8-1.いつでも打ってよいワクチン
3-8-2.コロナワクチンは接種時期が重要
3-8-3.コロナ用の弱毒化生ワクチン
3-8-4.コロナ用の不活化ワクチン
医療関係の学生は、病院実習の準備として「麻疹(はしか)、風疹(ふうしん)、水痘(みずぼうそう)、流行性耳下腺炎(ムンプス)」の抗体価を測定し、抗体が少ないときはそれぞれのワクチン接種を受けます。
これらのウイルスはコロナ SARS-CoV-2 と異なって 変異が少ない ため感染やワクチン接種でできた 抗体が長期間有効 に働きます。
しかも接種するのは 弱毒化生ワクチン なので、本物の感染後に近い総合的にバランスのとれた免疫ができます。
学生たちは、実習開始に間に合うように計画を立てて接種を受けています。
参考:医療関係者のためのワクチンガイドライン 第2版・第3版 (日本環境感染学会)
コロナ SARS-CoV-2 は特にスパイクのRBDヘッド近傍(:強い中和抗体が結合する部位)は変異が多く、ワクチン接種で作られる抗体は無駄になる可能性も大きいので、接種による利益を受けるためにはワクチンの種類や接種時期・接種回数を慎重に選ぶ必要があります。
まだ(2024年現在)、弱毒化生ワクチンという選択肢は無いので、ここではmRNAワクチン(初期型 ~ レプリコン型)を接種するものとして説明します。
最初に、「3-1.免疫学の基礎」~「3-7.ワクチン接種したのになぜ感染したのか」において得た免疫学的な要点、mRNAワクチン接種時期や回数を考えるうえで重要な要点を列挙します。
mRNAワクチン(初期型)を積極的に推奨しなければならない免疫学的な理由はひとつもありませんが、諸事情があってmRNAワクチン(初期型)を接種する予定の人が、少しでも接種の恩恵を受けることができるような工夫を紹介します。
免疫刷り込み(≒ 抗原原罪)をうまく利用して免疫を高める時期を上手に選ぶことができます。
たとえば、来月から2か月間アメリカへ行く計画があるとします。アメリカでは「トランプ株」が流行していて、「トランプ株用のmRNAワクチン」接種が行われているとします。
日本で「トランプ株用のmRNAワクチン」を1回接種しても免疫刷り込み(≒ 抗原原罪)のため「トランプ株」用の中和抗体は産生されません。しかし、メモリー細胞は用意されます。
粘液中の IgA も、血液中の中和抗体 IgG も無い状態なので、アメリカでの感染予防力はほぼ無い状態ですが、「トランプ株」に感染した時は迅速に共通エピトープに対する中和抗体が産生され、重症化を防いでくれると期待できます。
もし日本で「トランプ株用mRNAワクチン」を2回接種しておけば、1回目と2回目の共通抗原に対する抗体として「トランプ株」用の中和抗体もたくさん作られるので、アメリカでの感染予防もある程度は期待できます。2回接種してもmRNAワクチンでは IgA が作られないので、強力な感染予防は期待できないでしょう。
2回接種法には問題が2つあります。
問題のひとつは、コロナの変異が速すぎて、そううまくタイミングが合うことはめったにないだろうということです(トランプ株流行が大きく異なるプーチン株流行に代わっていたり)。
もうひとつの問題は、「トランプ株用mRNAワクチン」1回目接種と2回目接種の適切な間隔が不明だということです。
コロナの感染歴も接種歴もない状態でのmRNAワクチン接種(ファイザー)は、3週間の間隔を空けました。1回目と2回目を併せて初回接種と呼びます。
しかし、過去に感染歴や接種歴がある状態での接種であって、1回目と2回目の間隔が3週間と短い場合、過去の感染や接種による免疫刷り込み(≒ 抗原原罪)を乗り越えて新しい抗原に対する中和抗体を作ることはない可能性が大きいと考えられます。
その理由を説明します。
令和3年2021年の5月頃、私はひとりの看護師と出会いました。mRNAワクチン接種を2回受けたあとに、職場で抗体検査を受けたが、抗体はできていなかったそうです。
ワクチンを接種するたびに腹痛があったと言うので、詳しく話を聞くと、どうやら「おなかのコロナ」に罹っているときにmRNAワクチン接種を受けたようでした。
当時の私は免疫刷り込み(≒ 抗原原罪)の知識に乏しかったので、コロナ感染でみられる抗体を作らない傾向が強く出たのではないかと疑いましたが、改めて見直すと、これは「おなかのコロナ」感染後の免疫刷り込み(≒ 抗原原罪)だと理解できます。
先行するコロナ感染(または接種)による免疫刷り込み(≒ 抗原原罪)を乗り越えて新しいスパイクに対する抗体を産生するためには2回の接種が必要ですが、1回目と2回目の感覚をおそらく数カ月以上空けないといけないでしょう。具体的に何カ月間空けるとよいのかは、臨床治験等のデータが無いので不明です。
何ヶ月も、もたもたしているうちにトランプ株流行はプーチン株流行に変わってしまうでしょう。
mRNAワクチン(初期型)は結構ヤバい副作用をわりと多く持っています(・・・ロシアンルーレットなので当たらなければ大丈夫? ただし長期的副作用についてはまだ実験中! なので経験的保証もありません)。
mRNAワクチン接種は、得られるメリットとデメリットをよく天秤に掛ける必要があるでしょう。
そういうことはまったく気にならないという人は、mRNAワクチン接種によってコロナに対する細胞性免疫が少し強くなる効果は期待できるので、たとえば「最後のmRNAワクチン接種からもう2年が経過して、その効果も落ちてきた。2か月後のダボス会議には是非とも出席したいので、そろそろ次のmRNAワクチン接種をおこなっておこうかな」といった考えで接種時期を決めるのも良いでしょう。
イヤな副作用のことを無視できない人は、とにかく感染予防策をしっかりとするのが良いでしょう。
「3-8-3.コロナ用の弱毒化生ワクチン」で紹介する生ワクチンが実用化されると、mRNAワクチンは消えるでしょう。
・・・・・mRNAワクチンを消滅させないような工夫がなされる可能性はあります。
中身を詳しく見ていないのですが、BCG、インフルエンザワクチン、コロナワクチンなどは午後に接種するよりも午前中に接種した方が、免疫系の応答が大きくなるという研究結果が発表されています。
なお、免疫反応は「大きいことはイイことだ」とははなりません。
ワクチン開発時には、いつ接種しても十分な免疫が得られるように投与量が調整されています 😄
もし1回目午前中に接種したら反応が強すぎたという方は、2回目は午後を選んで接種すると反応をほどよく弱めることができるかもしれません。
⏰ Morning vaccination is linked to a stronger immune response than in the afternoon/evening.
— Brandon Luu, MD (@BrandonLuuMD) February 13, 2025
Here’s how your circadian immune system is key to immunity, inflammation, and disease risk. 🧵 1/9 pic.twitter.com/tlEltc2nH7
The circadian immune system Sci Immunol. 2022 Jun 3;7(72):eabm2465. doi: 10.1126/sciimmunol.abm2465. Epub 2022 Jun 3.
あらゆる面で総合的に優れているのが「弱毒化生ワクチン」です。
その開発もおこなわれているようです。
安全性も高く、本当に優れた弱毒化生ワクチンの開発には数十年を要するようです。
(重症化リスクを持たない)健康な人にとって、スパイクに対する中和抗体を準備することなどは、どうでもよいのです。
「3-4-3.感染しにくい人の免疫」で紹介していますが、濃厚接触を繰り返しても発症しない人々は、もちろん自然免疫は人並み以上に強いのでしょうが、知らないうちに感染して獲得免疫系が立ち上がっているようです。その際に抗体を産生するのではなく、ウイルスRNAの複製を担うタンパクを標的とした細胞性免疫を強化していることが明らかとなりました。
RNA複製を担うタンパクは変異が少なく、武漢株のものであろうと、オミクロン株のものであろうと、かまいません。
ここで陰謀論的なことを述べておくと、mRNAワクチンをポンコツ扱いにしてしまう「弱毒化生ワクチン」の開発は、巧みな妨害を受ける可能性が心配されます(そういう時代です 😅)。
2024.10.4鹿先生
— 福田 世一@小倉台福田医院 (@fseiichizb4) October 5, 2024
遺伝子操作でコロナウイルスを弱毒にした、コロナ弱毒生ワクチン論文が登場(Nature2024.8)
武漢型の生ワクチンやっておけば、T細胞免疫がガッツリできるので、将来の変異株にも有効な可能性ある。
ただ最近はサルを吹っ飛ばして、いきなりヒトで人体実験。慎重に慎重を期してほしい… pic.twitter.com/bquTb7lTeO
日本でも「弱毒化生ワクチン」の開発に取り組んでいるようです。
新型コロナワクチン譲与承認書について、現時点で取得できるものが開示されましたのでお伝えします、既存のものをまとめ一つのpdfにしました、ご参考に(新規追加開示分は47ページ以降)https://t.co/istexCPqWF
— kyo_twit (@kyo_twit) January 30, 2025
こちら(↓)は大阪大学による弱毒化生ワクチン開発研究の紹介です。
A VACCINE which uses a WEAKENED SARS-COV-2 VIRUS to TRIGGER stronger, LONGER-LASTING IMMUNE RESPONSE compared to mRNA vaccines 💥💯👍
— Emmanuel (@ejustin46) February 12, 2025
vaccineshttps://elifesciences.org/articles/97532/figures#content pic.twitter.com/GwytV0wFZN
令和7年2025年9月、武田製薬からコロナ用の不活化ワクチン(正確に言うと組換えスパイクタンパク抗原)「ヌバキソビッド筋注1mL(2人用)」が登場しました(それ以前は 5 mL 10人用がありました)。
コロナに対する免疫効果はmRNAワクチンよりほんの少しだけ劣るかもしれませんが、mRNAワクチンと異なり、いつ起こるとも知れない多種類の重い副作用を恐れる心配がない という意味で、オススメできます。
今どき、コロナのワクチンによって得られる免疫効果などたかがしれています。
流行が繰り返されるとき、スパイクに対する免疫効果は、先行感染によって作られたものでも、ワクチンで作られたものでも、「抗原原罪(≒ 免疫刷り込み)」によって無効になりますから、コロナの変異に太刀打ちはできません。
大事なことなので、もう一度言っておきましょう。
今どき、コロナのワクチンによって得られる免疫効果などたかがしれています。特にスパイク用のワクチンは無駄です。
したがって、何らかの事情でコロナワクチンを接種せざるを得ないときは、副作用の小ささを基準にワクチンを選ぶのが良いでしょう(個人の健康保持という視点からは)。
もちろん、人類社会全体へ貢献したい方へはmRNAワクチンの接種が断トツでオススメです。
ヌバキソビッド筋注1mL は、1バイアルに2人分というのが難点です(ひとりあたり 0.5 mL 筋注します)。
1バイアルあたり1人分だと、おそらく売れまくる恐れがあるので武田製薬が制約を受けているか、あるいは自主規制しているのかもしれません。
接種する人を探し、2名で診療所等に「ヌバキソビッド」を接種できるか問い合わせるのがよいでしょう。
コロナウイルスのスパイクは強い毒性を持っていますから、静脈内に大量に注入され全身に拡散しないように注意する必要があります。ワクチンの筋注を受けるときは「逆血無しの確認」をしてもらってください。
「逆血確認」は、静脈内に薬液を注入する前に、注射器で吸えば血液が逆流することを実際に確かめて、注射針が静脈内にきちんと入っていることを確かめることです。
ワクチンの「筋注(筋肉内注射)」のときは「逆血の無いことを確認」します。
逆血がなければ、筋肉内に注入した薬液の多くは「組織間液→リンパ管→リンパ節」へ流れると期待できます。逆血があると、薬液は「静脈→心臓→肺→心臓→動脈で全身に拡がる」ことになります。
令和3年2021年、日本国民全体に対するmRNAワクチンの大規模接種が始まったころ、「逆血がないことを確認しないで筋注してよい」というのが流行っていましたが・・・とんでもないことですね(個人の健康保持という視点からは)・・・でも、素晴らしいことかもしれませんね(〇〇削減に貢献するという視点からは)・・・。